「高齢者と認知症の視覚世界と自動車事故、その予防について」(後編)

3.「高齢者と認知症では自動車運転で何が問題?」

高齢になると、そして認知症になるとこれらの機能が低下し、障害されます。 その結果、ナビゲーター情報が完成せず進む方向が分からず、信号や近づいてきた歩行者、車の情報と場所が分からなくなります。

その状態を想像しください。これでは安全な運転は出来ませんし、ニュースでみる事故が起こるのも理解できます。

このような視空間認知機能ワーキングメモリー機能についての機能状態を評価、把握すればよいわけで、これが分れば運転できる状態にあるか否かが分るのです。

この双方の脳機能が働いていて初めてヒトは、目の前の景色の信号情報、左右の多くの歩行者、前を走る車や反対車線の車、横道から出ようとしている車、車道を走る自転車やバイク、行き先の助けになる道路標識や案内板、目印になる郵便局やお店など多くの情報を空間の中での位置情報に結びつけ、運転していくためにいくつかの情報は一時的に記憶しておいて、自分の手足は車のハンドル、ペダルのどの位置にあり、置かれて力はどれくらい入っているかを把握して、安全に正確に運転できるのです。

4.「認知症も高齢者も予防しよう」

こうした視空間認知機能ワーキングメモリーは絶えず働き続けています。従ってその脳機能を支える神経細胞とその接続部分(シナプス)が正常に営まれるよう維持することが重要になります。
このために日頃から何を心がけておけばよいでしょうか?

この答えは、栄養補給と潤滑油を切らさず、使ってその状態を安定しておくことです。
脳の栄養補給で重要なのは、糖分と酸素です。これらが不足すると意識がはっきりせず脳活動は低下しますので、しっかり取る必要があります。

しかし、糖分は過剰になるとインスリンが過剰に必要となり血管で炎症を起こし易くなり、血液の粘性を大きくして流れが悪くなり、アルツハイマー病に関わるアミロイド蛋白の除去も低下してきます。これが長年続きますとSCI(主観的記憶障害)、MCI(軽度認知障害)になる可能性が高くなります。
このため、糖分や必要栄養を摂りすぎないことが大事なわけです。

そして、日頃から脳機能を万遍なく使って働かせておくことが重要になります。
即ち、日常的に色々なことに興味を持って、種類多く活動をするのが大事です。散歩も良いのですが、毎日同じコースではなく頻回にコースを変えて視空間認知機能を良く使うこともお勧めです。

 筆者:「タッチエム」開発・監修            

 元北海道大学保健科学研究院 教授 医学博士 村上 新治

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